針治療の効果について
北島 敏光 (宇都宮脳脊髄センター)
東洋医学とは、数千年の歴史を有する中国医学を指します。わが国には5世紀初頭に百済から、また6世紀には唐から伝来し、江戸時代末期まで日本医学の主体として貢献しました。しかし、明治時代になって日本政府は新しい医療制度を定め、それまでの中国医学、つまり「漢方」を廃止して西洋医学を採用しました。これによって漢方医学は衰退の一途をたどりました。
その後、わが国では西洋医学による治療が行われましたが、必ずしもすべての病気に有効とは言えず、明治維新から100年以上たった1976年9月に漢方薬が医療用医薬品として正式に認可され、健康保険の下で使用できるようになりました。現在では、治療法の一つとして漢方薬は様々な病気に用いられています。
東洋医学には漢方薬と共に針治療があります。漢方薬と同様に長い歴史を有する針治療ですが、日常診療としては漢方薬ほど一般的ではありません。そこで、ここでは皆さんに針治療の効果について紹介したいと思います。
針治療は経穴 (けいけつ:ツボ) を刺激することによって気 (エネルギー) と血 (血液とその栄養分) を体のすみずみまで送って病気を治すと考えられます。ツボの数は、世界保健機関 (WHO) によると361あるとされ、さらに痛みの部位(阿是穴:あぜけつ)もツボとすると無数であるという意見もあります。
私は針治療を主に頭痛、頚部痛、肩こり、背部痛、腰痛、膝関節痛、五十肩などの疼痛疾患に用いますが、顔面神経麻痺の治療にも用いています。実際の手技は、まず針治療を開始する前に患者の虚実を判別します。虚弱体質のような虚証(エネルギー不足)の患者では、針を筋層内に浅く刺し、低周波刺激の頻度を約2Hz(ヘルツ)とし、刺激の強さを患者が気持ち良いと感じる程度とします。一方、実証(患者の抵抗力が充実あるいは病勢が激しい)の患者では、針を深く刺し、低周波刺激の頻度を約50Hzとし、刺激の強さは患者がやや痛いと感じる程度とします。そして、低周波刺激時間はいずれも15から20分です。針治療の鎮痛機序は、@脳内にモルヒネ様物質(エンドルフィンなど)の遊離、A脊髄での下行性疼痛抑制系への刺激、B筋血流量増加、C筋弛緩作用などがあります。
西洋医学で治療したが痛みが軽減しない人は、漢方薬の内服や針治療を受けることをお勧めいたします。思わぬ効果を発揮することがあります。